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0 429AC0100000076 平成二十九年法律第七十六号 鯨類の持続的な利用の確保に関する法律
(目的) 第一条 この法律は、鯨類は重要な食料資源であり、他の海洋生物資源と同様に科学的根拠に基づき持続的に利用すべきものであるとともに、我が国において鯨類に係る伝統的な食文化その他の文化及び食習慣を継承し、並びに鯨類の利用に関する多様性が確保されることが重要であることに鑑み、鯨類の持続的な利用の確保に関し、基本原則を定め、及び国の責務を明らかにするとともに、基本方針及び鯨類科学調査計画の策定、鯨類科学調査の実施体制の整備、捕鯨業の適切かつ円滑な実施のための措置、妨害行為の防止及び妨害行為への対応のための措置その他の必要な事項を定め、もって水産業及びその関連産業の発展を図るとともに、海洋生物資源の持続的な利用に寄与することを目的とする。
(定義) 第二条 この法律において「鯨類の持続的な利用」とは、鯨類を適切な水準に維持するようにその保存及び管理を行いながら持続的に利用することをいう。 この法律において「鯨類科学調査」とは、鯨類の持続的な利用のための科学的情報を収集することを目的として行う鯨類に関する科学的な調査をいう。 この法律において「捕鯨業」とは、鯨類を捕獲する漁業をいう。 この法律において「妨害行為」とは、鯨類科学調査又は捕鯨業の操業を妨害する行為をいう。
(基本原則) 第三条 鯨類の持続的な利用の確保は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。 鯨類科学調査が、次に掲げる事項を旨として実施されること。 主として捕鯨業を鯨類の持続的な利用が確保されるように実施するために必要な科学的知見を得ることを目指して実施されること。 我が国が締結した条約その他の国際約束及び確立された国際法規に基づき、かつ、科学的知見を踏まえて実施されること。 必要な研究成果が得られるよう、調査の結果については十分な分析及び研究が行われるとともに、それにより得られた研究成果については、広く公表され、かつ、その提供等により鯨類の持続的な利用の確保に係る国際協力が推進されること。 必要に応じて国内外の鯨類に関する調査研究機関と連携を図りながら実施されること。 捕鯨業に関する施策が、次に掲げる事項を旨として講じられること。 捕鯨業が、捕獲可能量(鯨類の持続的な利用のため、鯨類科学調査の結果その他の科学的根拠に基づき、捕獲の対象とする鯨類の種類ごとに一年間に捕獲することができる頭数の最高限度として算出される頭数をいう。以下同じ。)の範囲内で実施されること。 捕鯨業が、我が国が締結した条約その他の国際約束及び確立された国際法規に基づき実施されること。 捕鯨業を取り巻く状況に鑑み、適切な支援により、捕鯨業が円滑に実施されるようにすること。
(国の責務) 第四条 国は、前条に定める鯨類の持続的な利用の確保に関する基本原則(次条第一項において「基本原則」という。)にのっとり、鯨類の持続的な利用の確保のための施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(基本方針) 第五条 政府は、基本原則にのっとり、鯨類の持続的な利用の確保のための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。 鯨類の持続的な利用の確保のための施策の基本的な方向 鯨類科学調査の意義に関する事項 鯨類科学調査により収集する科学的情報に関する目標 前号の目標を達成する上で特に重要と認められる鯨類科学調査の実施に関する基本的事項 鯨類科学調査の実施体制に関する基本的事項 捕獲可能量の算出等に関する基本的事項 捕鯨業の円滑な実施の支援に関する基本的事項 妨害行為の防止及び妨害行為への対応に関する基本的事項 鯨類の持続的な利用の確保に係る国際協力の推進等に関する基本的事項 鯨類の適正な流通の確保等に関する基本的事項 十一 その他鯨類の持続的な利用の確保に関する重要事項 農林水産大臣は、あらかじめ法務大臣、外務大臣、海上保安庁長官その他の関係行政機関の長(当該行政機関が合議制の機関である場合にあっては、当該行政機関。第十五条第一項において同じ。)と協議して、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。 農林水産大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。 政府は、情勢の推移により必要が生じたときは、基本方針を変更しなければならない。 第三項及び第四項の規定は、前項の規定による基本方針の変更について準用する。
(鯨類科学調査計画) 第六条 農林水産大臣は、基本方針に即して、農林水産省令で定めるところにより、特に重要と認められる鯨類科学調査の実施に関する計画(以下「鯨類科学調査計画」という。)を策定するものとする。 鯨類科学調査計画においては、前項の鯨類科学調査について、次に掲げる事項を定めるものとする。 当該鯨類科学調査の目的 当該鯨類科学調査の実施海域 当該鯨類科学調査の方法 その他当該鯨類科学調査の実施に関し必要な事項 農林水産大臣は、鯨類科学調査計画を策定したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 農林水産大臣は、鯨類科学調査計画に係る鯨類科学調査の実施の状況等を勘案して、適宜、鯨類科学調査計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。 第三項の規定は、前項の規定による鯨類科学調査計画の変更について準用する。
(指定鯨類科学調査法人) 第七条 農林水産大臣は、一般社団法人又は一般財団法人であって、次項に規定する業務を適正かつ確実に行うことができると認められるものを、その申請により、指定鯨類科学調査法人として指定することができる。 指定鯨類科学調査法人は、鯨類科学調査計画に係る鯨類科学調査の実施(第十一条の捕獲可能量の算出についての協力を含む。次条及び第九条において同じ。)をすることを業務とする。 指定鯨類科学調査法人は、農林水産省令で定めるところにより、農林水産大臣に、鯨類科学調査計画に係る鯨類科学調査の実施の状況を報告しなければならない。 農林水産大臣は、指定鯨類科学調査法人が第二項に規定する業務を適正かつ確実に実施していないと認めるときは、指定鯨類科学調査法人に対し、その業務の運営の改善に関し必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。 農林水産大臣は、指定鯨類科学調査法人が前項の規定による命令に違反したときは、その指定を取り消すことができる。 第一項の指定の手続その他指定鯨類科学調査法人に関し必要な事項は、農林水産省令で定める。
(補助) 第八条 政府は、指定鯨類科学調査法人に対し、予算の範囲内において、鯨類科学調査計画に係る鯨類科学調査の実施に要する費用の一部を補助するものとする。
(国立研究開発法人水産研究・教育機構による鯨類科学調査の実施) 第九条 農林水産大臣は、国立研究開発法人水産研究・教育機構に、鯨類科学調査計画に係る鯨類科学調査の実施に関する業務(指定鯨類科学調査法人が行うものを除く。)を行わせることができる。
(鯨類科学調査の実施体制の整備) 第十条 政府は、鯨類科学調査を安定的かつ継続的に実施するため、鯨類に関する科学的な調査研究を行う人材の養成及び確保、鯨類科学調査の実施に当たっての捕鯨業者の協力の確保その他鯨類科学調査の実施体制の整備に必要な措置を講ずるものとする。
(捕獲可能量の算出等) 第十一条 政府は、鯨類の持続的な利用が確保されるように捕鯨業が実施されるようにするため、捕獲可能量の算出、当該捕獲可能量の範囲内で捕鯨業者が一年間に捕獲することができる頭数の設定、これを超える捕獲が行われないことを確保するための措置その他必要な措置を講ずるものとする。
(捕鯨業の円滑な実施の支援) 第十二条 政府は、捕鯨業の円滑な実施を支援するため、捕鯨業の実施のための船舶及びその乗組員の確保の支援、鯨類の捕獲、解体及び保蔵に係る技術の開発及び普及の促進その他必要な措置を講ずるものとする。
(妨害行為への対応等のための支援) 第十三条 政府は、鯨類科学調査を実施する者又は捕鯨業者が、妨害行為を防止し若しくは妨害行為に対応するために必要な船舶、設備若しくは装備を備え、又は船舶の乗組員その他の関係者に妨害行為を防止し若しくは妨害行為に対応するために必要な知識及び技能の習得若しくは向上のための訓練を行うため、必要な情報の提供、助言その他の必要な支援を行うものとする。
(妨害行為への対応等のための政府職員の派遣等) 第十四条 政府は、妨害行為の防止又は妨害行為への対応のため、必要に応じ、水産庁の職員その他その職務に従事する政府職員(以下この条及び次条第一項において単に「政府職員」という。)又は政府職員が乗り組む船舶を鯨類科学調査の実施又は捕鯨業の操業に係る海域その他の場所に派遣し、当該政府職員に法令の規定に基づき必要な措置を講じさせるものとする。
(妨害行為への対応のための関係行政機関の情報共有) 第十五条 農林水産大臣、内閣総理大臣、法務大臣、外務大臣、海上保安庁長官その他の関係行政機関の長は、必要に応じ、鯨類科学調査又は捕鯨業に係る船舶の乗組員(前条の規定により派遣される政府職員及び同条の規定により派遣される船舶に乗り組む政府職員を含む。次項において同じ。)その他の関係者が妨害行為に対応してとることができる措置の具体的内容について、あらかじめ情報を共有することにより、相互の緊密な連携を確保するものとする。 前項の情報の共有は、想定される妨害行為の類型ごとに、我が国が締結した条約その他の国際約束及び確立された国際法規並びに法令に照らし、鯨類科学調査又は捕鯨業に係る船舶の乗組員その他の関係者が妨害行為に対応してとることができる措置について、鯨類科学調査を安定的かつ継続的に実施し、及び捕鯨業が円滑に実施されるようにする観点からできる限り具体的に行われるものとする。
(妨害行為への対応等のためのその他の措置) 第十六条 政府は、外国船舶による妨害行為の防止又は外国船舶による妨害行為への対応のため、外交上適切な措置を講ずるものとする。 政府は、妨害行為の発生の防止のため、妨害行為を行うおそれがある外国人について、上陸の拒否その他の入国、上陸及び在留の管理に関する必要な措置をとるものとする。
(鯨類の持続的な利用の確保に係る国際協力の推進等) 第十七条 政府は、鯨類科学調査により得られた科学的知見及び我が国における鯨類の持続的な利用の確保に関する情報の関係する国際機関への提供その他の鯨類の持続的な利用の確保に係る国際協力の推進に努めるとともに、当該科学的知見の国内外における普及及び活用並びに鯨類科学調査の意義に関する国内外における理解の増進のために必要な措置を講ずるものとする。 政府は、鯨類に係る伝統的な食文化その他の文化及び食習慣の継承並びに鯨類の利用に関する多様性の確保に関する国内外の理解と関心を深めるため、鯨類に関する文化及び食習慣並びに鯨類の利用についての広報活動の充実、学校給食等における鯨類の利用の促進その他の必要な措置を講ずるものとする。 政府は、捕鯨を取り巻く国際環境の改善を図るため、関係国との連携及び関係国への働きかけの強化その他必要な外交上の措置を講ずるものとする。
(鯨類の適正な流通の確保等に関する措置) 第十八条 政府は、法令の規定に違反して捕獲された鯨類の流通を防止するため、捕獲された鯨類の個体の識別のための情報の適正な管理、流通に関する調査その他必要な措置を講ずるものとする。 政府は、鯨類の加工、販売等を行う事業者その他の関係者に対しその事業等を妨害されることについての不安を生じさせることがないよう必要な措置を講ずるものとする。
(財政上の措置等) 第十九条 政府は、第八条に定めるもののほか、鯨類科学調査の実施体制の整備、捕鯨業の円滑な実施の支援、妨害行為への対応、鯨類の持続的な利用の確保に係る国際協力の推進その他鯨類の持続的な利用の確保のための施策の実施のため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
附 則 (施行期日) この法律は、公布の日から施行する。 (経過措置) 農林水産大臣は、この法律の施行の際現に鯨類に関する科学的な調査(鯨類を適切な水準に維持しながら持続的に利用するために必要な科学的情報を収集することを目的として行うものに限る。)の実施に関する計画を策定している場合であって、当該計画が基本方針に即し、かつ、第六条第二項各号に掲げる事項を定めるものであるときは、当該計画をもって鯨類科学調査計画とすることができる。 前項の規定による鯨類科学調査計画に関し、第七条第一項の規定により指定鯨類科学調査法人が指定される日までの間に実施された調査については、同条第三項の規定にかかわらず、当該調査を実施した者が、同項の規定の例により、農林水産大臣に報告しなければならない。 (検討) 政府は、鯨類科学調査を安定的かつ継続的に実施する観点から、効果的な妨害行為の排除の方法及び取締りの在り方について速やかに検討を加え、その結果に基づいて外交上の措置、法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。 附 則 (施行期日) この法律は、公布の日から施行する。 (経過措置) この法律の施行の際現にこの法律による改正前の商業捕鯨の実施等のための鯨類科学調査の実施に関する法律第七条第一項の指定を受けている一般社団法人又は一般財団法人は、この法律の施行の日(次項において「施行日」という。)にこの法律による改正後の鯨類の持続的な利用の確保に関する法律(以下「新法」という。)第七条第一項の指定を受けたものとみなす。 施行日から新法第六条第一項の鯨類科学調査計画が策定されるまでの間において前項の規定により新法第七条第一項の指定を受けたものとみなされた一般社団法人若しくは一般財団法人又は国立研究開発法人水産研究・教育機構が実施する鯨類科学調査(新法第六条第一項の鯨類科学調査をいう。以下この項において同じ。)であって、農林水産大臣が必要と認めるものは、新法第六条第一項の鯨類科学調査計画に係る鯨類科学調査とみなす。 (検討) 政府は、この法律の施行後三年を目途として、新法の施行の状況、捕鯨を取り巻く状況等を勘案し、鯨類の持続的な利用の確保の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。